フラスコを振る

某研究機関で研究やってる人の日記です。科学や(自分の専門の)生物をもっと楽しんでもらいたい。Twitterは@nkjmu。

論文読んだ感想を書く

こんにちは、nkjmyです。

前回はイグノーベル賞受賞の話題について書きましたが、

なんやかんや、来週はノーベル賞の発表週間ですね。

 

 

最初は物理学賞から始まるんですかね。(初日は生理医学でした。10/2 AM加筆)

生物系に関しては、化学賞、生理・医学賞両方で自分のわかる話題が出てくる可能性があるので楽しみです。

 

物理学科の知り合い、後輩の話では、物理学賞は「重力波の検出」に関わる人なんじゃなかろうかと言ってました。

そりゃあ、話題になりましたもんね。アインシュタインの予言から100年、ついに!という感じでしたし。

 

さて、今日は昨日アラートで流れてきた論文が色々(今後の可能性的にも)ワクワクする、自分の研究に近めのものということで、

備忘録的に内容を(わかる範囲で)書きなぐっておきます。

 

それがこちら

Inward H+ pump xenorhodopsin: Mechanism and alternative optogenetic approach | Science Advances

内向きのH+(プロトン)ポンプ-ゼノロドプシン:メカニズムと別のオプトジェネティックアプローチ

 

まず、内向きH+ポンプのゼノロドプシンを説明する前に、

細胞中(細菌でもいいけど)におけるイオンの輸送について。

 

呼吸でも光合成でもいいんですが、あれは、ざっくりいうとH+を細胞の外に出し、

外側で溜まったH+が(坂道の上から下にボールが転がるように)細胞の内側に入ってくるときにエネルギー通過(ATP)を作るというもの。(光合成の場合、葉緑体内でのことなので、膜の内側外側の表現がしばしば逆に。)

 

つまりこんな感じ

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(呼吸鎖電子伝達系の諸々を略していますが概観という点でご了承下さい)

 

呼吸では、このH+の輸送を有機物の酸化によって、

光合成では光エネルギーによって行います。

 

さてロドプシンとは?我々の目にもロドプシンはあるのですが、

「光エネルギーを受容する」タンパク質であるという点は一致するものの、今回の主役ではないので(ややこしいから)割愛。

 

細菌を始めとする微生物がもつロドプシンには、光を受容すると、イオンを輸送できる機能を持つものがあります。

つまり

 

f:id:nkjmy:20170930150452p:plain

こんな感じ。

光が当たるとH+を外に出せるもの(これは呼吸や光合成のように、ゆくゆくはエネルギー通貨を作るためにも使えます)や、Na+を外に出せるもの、あるいはCl–を取り込むものなど色々な機能があります。

(他の機能については割愛)

 

え?光合成と同じやん!

と思われるかもしれませんが、光合成は呼吸のように、たくさんの部品(タンパク質)を1つのシステムとして作り上げている(上の図だと、呼吸はオレンジの四角4つ、光合成も似たような感じ)のに対し、

ロドプシンは基本1つのタンパクだけで働きます。

 

Simple is best.

たくさんの部品を用いると間に色んな反応を挟めますが、そういうことができない代わりに、ただただ、イオンを輸送するシンプルな系。

 

せて、ようやく上の論文の結果の奇妙さを味わう準備ができました。

 

すでにお気づきかもしれませんが、

生命にとって、「エネルギーを得る」≒「H+の勾配をどう作るか」といっても良いくらい、H+の勾配(外に溜まった状態)が重要なのです。

 

通常のH+輸送は外に出すので、outwardですが、今回の発見(正確にいうと少し前にすでに別の論文で報告されていましたが)は、inward

つまり

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こういうこと。

 

せっかく呼吸によってH+を外に出して貯めたのに、光が当たって内側にH+を運んでしまうようなロドプシンがあると、

エネルギーを合成するための酵素と競合してしまって、ATPを作れなくなってしまわないか??(横取り・・・)

ということ。

 

これはあくまで、大腸菌内で、この遺伝子を組み込んで解析した結果なので、

これを持つ細菌(この論文の場合は古細菌でしたが)が、

本当に「内向きのH+輸送」を行なっているのかどうかは未だ不明です。

 

大腸菌内での輸送の活性(どんくらい運べるか)は、「powerful」と表現されるくらい、ガンガン内向きにH+を運んでいたようで、

もし元々の持ち主でも同じように行なっているとすると、一見自殺行為に見えるこの現象は、どう説明されるのか見ものかなと。

 

ちなみに、この論文での「元々の持ち主」は、Nanohaloarchaeota(ナノ好塩古細菌)門(ただし今のところ分離培養されていないのであくまで暫定的な名前)というやつらで、

塩湖やアルカリ湖に生息する、細菌、古細菌のサイズと比べ、

体のサイズだけではなく、遺伝子全体(ゲノムサイズ)も小さいです。

 

近年注目されつつある、極小細菌(古細菌)のグループの1つで、私自身も興味を持って、論文が出れば続報を入手しているという感じですね。

 

当ブログでも

「常識はずれの細菌」に関しての解説書いてみる - フラスコを振りながら

さいきんのさいきんの話、書きます - フラスコを振りながら

2度取り扱っております。

 

ではでは

 

今日はこの辺で

 

終わり