自分の論文のざっくり解説を書く
こんにちは、nkjmyです。
なんか桜が咲き始めるかなと思いきや、本日(3/21)は関東の一部で雪を観測という、
めっちゃ寒いやんけ状態で、「春はよ来い」です。
さて、今日はタイトル通り。
数日前に博士論文の章の1つである論文が早期公開開始となりました。
(早期公開のため、補足情報のpdfファイルは見られませんが)
ざっとその内容について解説を書いてみます。
さっそくですが、論文のURLはこちら
一応、フリーアクセスです。
タイトルを直訳すると、「海洋細菌中に存在する好塩古細菌のハロロドプシン様Cl-ポンプ」です。
まず、
ロドプシンについては、過去の記事にも登場しておりますので、そちらをどうぞ。
論文読んだ感想を書く - フラスコを振りながら (ここでも、Cl-ポンプが登場しています)
つまり、「光が当たるとイオンを輸送できるタンパク質」ですね。
Cl-ポンプは光が当たると細胞の外側から内側に塩化物イオンCl-を輸送します。
こういうCl-ポンプは1980年に高塩分環境(塩湖とか塩田とか)に生息する好塩古細菌から見つかっていました。
古細菌は、細菌のようですが、実は分類的に全然異なっていて、
ドメインとよばれるレベルで違います。(ドメインは細菌・古細菌・真核生物の3つ)
まぁ「原核生物」という細胞に複雑な小器官のない生物という意味では我々(真核生物)よりかは細菌に近いのですが。
さて、最初に見つかった上記Cl-ポンプはハロロドプシン(HR)と呼ばれています。
最近は遺伝子解析技術の発達に伴い、いろんな環境で探索できる様になり、
これまで、海洋細菌からClRと呼ばれるもの、淡水に生息するシアノバクテリアからHRっぽい(でも違う)ものとしてMrHR, SyHRとよばれるCl-ポンプが見つかっていました。
今回我々のグループは、3種の海洋細菌の遺伝子解析(ゲノム解析)を行い、そこ(うち2種)から5つのロドプシン配列を発見しました。
解析した種名も、この後の表現上便利なので書いておきますと、
Rubricoccus marinus SG-29T, Rubrivirga marina SAORIC-28T, Rubrivirga profundi SAORIC-476T です。(Tはタイプ種)
これらをR. marinus, R. marina, R. profundiと略して書くようにします。
R. profundiはロドプシンを持っていないのであまり出てきません。
5つのうち、2つは、上の過去記事にもある、(既知の)内向きH+輸送をするロドプシンで、R. marinus, R. marina がそれぞれ持っていました。
残りの3つは、R. marinusが1つ、 R. marinaが2つです。これらの系統樹を描くと、
HRやSyHRなどの近くに、「この3つだけでクラスターを形成する」ことがわかりました。(でも近いだけで機能はわからない)
ロドプシンがなんの機能を持つのかというのに重要なアミノ酸を見てみると、どうもHRっぽいぞ・・・ということで機能解析をしたところ、
Cl-ポンプであることが判明。
(赤矢印が今回のロドプシン。各ロドプシンのクラスターの背景色はどこから見つかったかで、青が海洋、緑が淡水、薄オレンジが高塩分、灰色がその他です。この系統樹は、Cl-ポンプ以外のロドプシンも描いています)
これまで、海洋細菌からはClRというCl-ポンプが見つかっていたのに、全然系統的な位置がちゃうやんけ!ということに。
新しいロドプシンは、R. marinus, R. marinaが持っていたということで、
RmHR (R28HR1, R28HR2)と命名しました。(どっちも略すとかなり似てるので、Rmばっかりにできなかった・・・)
ここで少し、R. marinus, R. marina, R. profundiとは海洋細菌なんですが、どういうグループかと言いますと、Rhodothermaceae科というグループに属します。
この科は、海洋細菌、好塩細菌、好熱細菌が属している面白いグループなのです。
そして、同じグループの好塩細菌には、Salinibacter ruberと呼ばれる細菌がいます(S. ruberと略します)
S. ruberは先行研究の結果から、高塩分環境に生息しており、遺伝子の水平伝播によって、好塩古細菌からロドプシンやそのほかいくつかの遺伝子を受け取っているということが明らかにされています。
この受け取ったとされているロドプシンこそ、HRなのです。
R. marinus, R. marina, R. profundiとS. ruberは近縁な種であるため、
もしかして、R. marinus, R. marina, R. profundiもそういう遺伝子のやりとりがあったのかも?ということで、ロドプシン以外の遺伝子についても調べてみました。
それがレチナール生産経路の遺伝子blh, crtYです。
レチナールというのはロドプシンの内部に結合している色素で、
ロドプシンが光を受容する(つまり機能を発揮する)ために必要です。
こんな感じで(もっと上流にいろんな反応があるけど)作られます。
これら2つの遺伝子についても系統樹をつくってみると、
blhの方は
こんなのに。
薄いオレンジ&薄い矢印は、本来R. marinus, R. marina, R. profundiが属する、Bacteroidetes門と呼ばれるグループの細菌たちが形成するクラスター。
一方、青紫は好塩古細菌やS. ruberなんかの高塩分環境に生息するやつらがつくるクラスター。赤矢印がR. marinus, R. marina。(R. profundiはblh持ってない)
crtYも見てみると、
やはり、本来のグループではなく、好塩古細菌に近い。
赤矢印がR. marinus, R. marina, R. profundiで、crtYは3種とも持っている。
(正確にいうと、crtYcdというクラスター)
追加でちょっとだけ、ゲノム情報を使った解析もしつつ、
この論文の締めとしては、
現在は、海洋に生息しているものの、過去に(R. marinus, R. marina, R. profundiとS. ruberの共通祖先が)高塩分環境に生息していて、
そこで好塩古細菌から遺伝子を受け取った(もちろん、好塩古細菌に受け渡した遺伝子もあるだろう)のではないか、ということ。
海洋に生息する中で、ロドプシンとかblhを落としたのか、そもそも受け取れてないのか、R. profundiも「持たないもの」として面白い対象ではあると思います。
ロドプシンは、これまで、
海洋環境に生息する細菌・古細菌間や、
高塩分環境のS. ruberと好塩古細菌間のような
「同じところに(たくさん)生息するもの同士」では水平伝播によるやりとりが示唆されていました。
が、
今回は、少なくとも今、生息している環境は違うところなのに、その(やりとりの)痕跡があった
という意味で、新しいクラスターのロドプシンを見つけたということに加えて面白い結果かなと。
以上です。
終わり