「かいじゅうのくち」を調べたい
こんにちは、nkjmyです。
気晴らしに論文読んでざっと説明を書いてみるシリーズ。
今回のネタは、前回の御礼記事に書いた、
これについて触れてみましょう
オープンアクセスではないとはおもいますが、元論文はこれです
調べられたのはハンドウイルカ(Tursiops truncatus)2頭。
お口の中(歯肉溝という部分のようです)の細菌を磨いてというか引っ掻いて?採取し、遺伝子を抽出し、解析しました
合計で107個のゲノム(とある種あるいは個体の全遺伝情報)がおよそ決定できたということです。
そのうち、22個のゲノムはこれまで分離培養(実験的に増やすこと)ができておらず、
正式な学名がつけられていない、「いるのはわかっているが・・・」な種に一致したようです。
しかし、これまで知られている「門」のどれとも似つかないようなグループが2つ、
新たに(遺伝情報的に)見つかり、著者らはこれらを、
‘‘Candidatus Delphibacteria’’ ‘‘Candidatus Fertabacteria’’という名前にしたようです。
Candidatusというのはまだ候補であるという意味です。
前者はイルカからきてるんでしょうけど、後者は・・・なに?
まぁこの新しい門ですが、あくまでも16S rRNAという種を簡易に判別する目印配列の1つの似てる度合いが75%以下になったということで、
75%以下なら絶対新しい門という基準ではありません。(ちなみに97%以下の場合は少なくとも新種、となります。)
他にもCPRと呼ばれる巨大な「未培養」なグループの集まりに属する細菌を16種見つけたと書いてあります(といってもこれもまた遺伝子情報としてあった、というのに過ぎない)
新しい門候補のDelphibacteriaのある(種の)ゲノムがほぼ完全な状態に再構築できたようで、色々「どのような遺伝子を持っているのか」「どういう代謝をしているのか」ということも提案できているのですが、ややこしいので飛ばしましょう。
面白いことに、この新しい門のDelphibacteria、2頭のイルカの全細菌中の
1.2〜1.6%くらいになるようです。
1%って少なくね??マイナーやんと思われるでしょうけど、
そもそもどこにでもいるとか共生には欠かせない?ような有名どころが圧倒的大多数いるのが通常です
微生物生態学で、rare-speciesという言葉があり、ある環境中で「レア」な種がどんなもんであるかを調べることがある(そしてrareが意外に重要である)のですが、
その場合のレア、とは全体の0.1%, 0.01%とされることがあり、
めっっっっっっちゃ多い何種かの細菌と、
それ以外は、ほんの少ししかいないような膨大な種
これらによって(腸内にせよ、自然環境にせよ)支えられていると言われています
ということで
1%を超えるかもというのは「意外にいる」ということになりますね。
この論文では、他にもファージ(細菌に感染するウイルス)に関する遺伝子解析の結果や、CRISPRと呼ばれる細菌が持つ免疫機構のようなものに関する結果も含まれていますが
まだ読んでない
かつ
ちょっと専門がずれるのでちゃんと把握しきれてない
ので
割愛
代わりに去年出た、「かいじゅう」の微生物群集に関わる結果をさらっと紹介。
*かいじゅう=海獣:イルカやアシカなど海に生息する哺乳類
これはオープンなので、誰でも読めます。
これもまだこの間見つけたばかりなので、完全な把握はできていないですが、
ポイントとして、48頭のイルカ、18頭のアシカの口や腸内と、海水の中にいる細菌の群衆を比べたところ、
似てない!
ということが明らかになったことです
全部で4100ちょっとの擬種(OTU。種ではないけど、解析的に1OTUを1種とすることも)のデータが得られ、
イルカ
アシカ
海水
のどこから見つかるかをベン図にしたところ、
全部で見られるものはたったの12。
海水のみに見られるものは約2100
イルカのみに見られるのは約1300
アシカのみに見られるものは約550
ということになったようです。
先ほどのような、何がメジャーでなにがレアかの解析もされており、
上位の様子も全く異なることがよくわかります。
門レベルで「何が多いか少ないか」が違うんです。
(FusobacteriaとかTenericutesとかなんて、海洋じゃめったに聞かんよ・・・マニアックな情報やが)
例えば海水で最もよく見られる種の1つであるPelagibacterと呼ばれるやつなんかは
イルカやアシカの中で見てみると密度が100倍以上低くなっているとか
逆にイルカやアシカの口や腸内で多いやつは海水では密度が何桁も低いとか
海獣なので、たえず海水にさらされている口や、食事の際にはとうぜん胃の中などにも入り込むと思うのですが、
共生関係としてやっていけるかどうかって全然違うのではないかと予想できますね。
魚とかイカと共生してるようなやつを調べたら、このベン図や主成分分析(群集の構成要素がどのくらい近いか遠いか)がどこに近いかわかりそうですし、
面白そうですね。
ということで今日はこの辺で
終わり